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キースは魔界を統べる王様で、王様としての名前をスカイハイといいました。
よく魔族らしくないと言われる気性で、先代から譲られた就任直後は反発する魔族も多くいましたが、一言物申そうとやってきた相手にはその天然ぶりで気勢を削ぎ、実力行使で来る相手は強大な力でねじ伏せ、何やかや実力主義である魔族世界で、今は立派に王様と認められています。
キースの趣味は、ソウルメイトのジョンと共に魔界のあらゆる所を視察…なのか散歩なのかは意見の分かれるところですが、とにかく直に民の暮らしを見てまわることです。
放っておくと苦手な執務を進めないまま、あちらへふわふわ、こちらへぶらぶら、風のように放浪し続けるため、適当なところで優秀な側近であるバーナビーに連れ戻されるのですが、それも含めて名物になるほど常習化していました。
魔族の寿命は気が遠くなるほど長いので、やがてキースは魔界中の行脚を完遂しました。
しかしある時彼は、苦手な執務中に地図を見ていて、ふと気付いてしまったのです。
東の半島の先にある小さな島。
そういえばそこには行った事がありません。
「この島に、ひとは住んでいないのかな?」
特に意図があった訳ではありませんが、気になることはすぐに解消するタイプでしたので、側にいた官に尋ねました。
すると彼はしばし黙って、いいえ誰も、と答えました。
その反応を不思議に思ったキースは、話す相手、会う相手に、片っ端から同じ質問を投げかけました。
誰もがそこに住人はいないと答える中、
とうとう違う答えが返ってきた時、キースは何やら達成感のようなものすら感じて笑顔になりました。ですが、その者の言葉に眉をしかめることになったのです。
「その島にいるのは、魔族と精霊の混血です。彼のものは声を変え姿を変えひとを惑わすため、離島に隔離されました。我々魔族は様々な力を持っておりますが、姿形は確固と定まったものを持っております。幻のように姿定めぬものになど、関わらぬが賢い王の在り方でございますよ」

君はもしかして知っていたんじゃないのかい、という恨みがましく尋ねると、バーナビーはあっさり頷きました。物知りの彼に質問したのは最初の頃だったというのに、ひどい話です。
キースがそう訴えたところ、バーナビーはしれっと答えました。
「言えば貴方が興味を持たれると思いましたので。しかしここまで諦められなかったのは、僕としては少々以外です」
「私が興味を持つと、何か不都合があるのかい」
「貴方が行くと先輩が怯えます」
「先輩? バーナビー君の?」
「昔の話ですけどね。とにかく貴方は島に近づかないでくださいよ」
「その先輩くんは、人を惑わすような悪い事をしたのかい?」
案の定興味を持ってしまったらしい魔王に、バーナビーはため息をつきました。しかしここではぐらかしてもきっと逆効果でしょう。バーナビーは一言だけ答えました。
「いいえ。先輩はそのようなことをされる方ではありません」
キッパリとした声音は怒っているようで、他人事で腹を立てるなど滅多にしない側近の様子に、さしものキースも驚いて、それ以上の質問は口を突いて出ませんでした。

なんだか機嫌の悪いバーナビーをそれ以上刺激するのは憚られたものの、キースは決してその島のことを忘れた訳ではありません。
いえ、むしろその島への、もっと正確に言うならそこの住人への興味は、日毎にいや増すばかりです。
そんな事はお見通しらしいバーナビーは、キースの外出を予定を入れて阻むなり、供をつけるなりしてなにかと牽制していましたが、とうとう我慢できなくなったキースは、単身城を飛び出しました。
最大風力で飛べば東の半島へは半日ほどの行程です。昼食前の隙をついて飛び出してきたので、半島の上空に着いた時にはもう陽はとっぷりと暮れ、ずいぶんとお腹も空いていました。
すぐに食べれる木の実や果実が見つかればいいのだけれど。
そんな心配をしながら島に降り立ちました。
ここまで来て、おそらく後を追いかけてきているバーナビーに捕まる訳にはいきません。
キースは颯爽と歩き始めました。
どこに向かえばいいかは分かっています。
先ほど空から見下ろした時、のびのびと生い茂る樹々の隙間から、人家らしき灯りが見えたのです。
夜に着いたのは正解だったかもしれないとキースは前向きに考えました。昼間では探索にも骨が折れたことでしょう。
果たして、当たりをつけて進んだ先には、質素な一軒家がありました。
先ほどと変わらず、家の中からは温かな灯りがもれています。
キースは礼儀正しくそのドアをノックしました。
「こんばんは! そしてこんばんは!」
そうしてしばらく待っても、家の中は静かなままです。
はて、ノックの音や掛け声は家主に届かなかったのでしょうか。
しかしキースの声は辺りにわんわんと木霊するほどのものでした。
もしかして、灯りをつけたまま留守にしているか、うたた寝でもしているのかもしれません。
さてどうするか、と思案したところで、健康体のキースのお腹が、ご飯の時間ですよと大きな声で主張したのです。それは、先ほどの掛け声に比べれば小さなものでしたが、ノックの音には負けず劣らずで、キースはひとり赤面しました。
こんなに鳴るお腹を抱えて、ひとを訪ねるのは得策ではないかもしれません。
よし、先にお腹を満たそう、そして再チャレンジだ!と踵を返しかけたその時でした。
キイとささやかな音を立てて、目の前の扉が開いたのです。
その陰から、そおっと顔を半分だけのぞかせたひと影が、聞き取れるぎりぎりの大きさの声でこう言いました。
「…どちらさまでしょうか」
おお、この相手が訪ねびと!
キースは張り切って答えました。
「はじめまして! そしてこんばんは! 私はキース。そしてスカイハイとも呼ばれている者だよ。よろしく、そしてよろしく!」
高らかに宣言した途端、家の中でバタバタドタンと何かが慌ただしく倒れたような音がしました。
キースは驚いて、
「大丈夫かい!?」
と扉を全開にして中へ飛び込みました。
家の中には床に尻もちをついた少年がいて、まるでお化けでも見るような顔でこちらを見上げています。
「どうかしたのかい!? だいじょ」
「ひぃえええええええ」
伸ばした手を後ずさりで避けられて、キースはちょっぴり傷つきました。
「ええっと…」
「す…すすす、スカイハイ、って、今スカイハイって、言っ」
どもりながらも絞り出された声を拾って、ああ、とキースは頷きました。
「うん、言ったね」
「…あなたが?」
「そう」
「……………………魔王、さま?」
言ってはみたが信じたくはない、という顔で少年がつぶやきました。
しかしそこで空気を読んで対応するキースではありません。にっこりと大きく頷いて、ばっと大きく両手を広げるポーズをとりながら言いました。
「その通り、そして正解だよ! よく知っ」
「ぅえええええ、ちょ、そん、うひぇぇえええええぇぇぇ!?」
よくわからない奇声を上げて、少年がさらに後退りました。途中で椅子などを引っ掛けて倒しながら、向こうの壁に背中を打ちつけてようやく止まったものの、足は往生際悪くまだ後退しようと頑張っています。
これにはキースもちょっぴり、いえ、かなり傷ついて、しょんぼりと首を垂れました。
「私は君に何かしてしまったのだろうか。初対面で怯えられる私、とても寂しい…」
「えっ、違、」
ぴたりと足の動きを止めた少年は、反射的に前のめりになって訴えかけ、「…わないか」とつぶやきました。意外に冷静です。
少年が逃げるのをやめたことで少し持ち直したキースは、とりあえず確認をとることにしました。
「私が何かしてしまった訳では」
「ありません」
もごもごと、しかしすぐに返ってきた答えに、キースはひとまず安心しました。
「でも、怯えているよね?」
キースは再び尋ねました。肯定されると切ないですが、事実確認は必要です。
少年はきょろきょろと目を泳がせて、ふるふると首を横に振りました。
「あの、怯えている訳では。…その」
だんだんと背中を丸めて、完全に俯いてしまってから、ぽろりとこぼすように言いました。
「ただ、畏れ多くて…」
キースは驚いて目を見開きました。
今まで色々なところに視察に行きましたが、どこでも笑顔で迎えられていたので、こんな反応や、こんな事を言われるのは初めてだったのです。
どう言ったらこの距離を縮めることが出来るだろうかと、キースは考えました。普段あまり深く考えて行動する方ではないので、それは慣れない作業でしたがこの際そうも言っていられません。
うんうん悩むキースと、壁際で丸くなって黙ってしまった少年との間に、長い沈黙が横たわりました。
それを破ったのはどちらでもなく、キースの背中を襲撃する形で乗り込んできたのです。
「先輩! 大丈夫ですか!!」
「バーナビーさん!」
少年に駆け寄る側近はまるで物語の中のヒーローのようで、側近を迎えた少年の顔は、救いを見出してキラキラと輝いていました。
あれっ、そうすると私は悪者なのだろうか。
背中から蹴り倒されたキースは、地味に傷つきました。
先ほどとは打って変わった少年の笑顔が、ちくちくと胸を刺します。
ああ、どうせならその笑顔を私にも向けてくれないだろうか。
キースはそんな事を考えて、ん?と首を傾げ、何に違和感を抱いたのか分からずにまた、んん?と首を傾げました。が、やはり分からずに諦めました。難しいことは苦手な質で、悩みは続かない方なのです。
それよりも、せっかくバーナビーが来たのですから、少年との仲を取り持ってもらう方が大事でした。
「やあバーナビー君!」
「先輩を怯えさせないでくださいスカイハイさん。場合によっては実力行使させていただきますよ」
すでに実力行使済みの側近が眼鏡を光らせて言いました。
気になって仕方のない少年は、その背中の向こうに見切れています。
ううん、これは困った、そして困ったぞ。
優秀な側近という壁を前に、キースの挑戦が始まろうとしていました。
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